河北新報・微風旋風9 2004年3月25日掲載分

森を焼く


 先日、京都で開かれた農耕と生態系との関係について考える研究会で、文化人類学者の小山修三さんからとても興味深い話を聞いた。オーストラリア先住民のアボリジニが、毎年乾期になると、森や草原に意図的に火をつけ山火事を発生させるというのだ。アボリジニによるこのブッシュファイアの煙があちらこちらに立ちのぼるこの時期の森の光景は衝撃的だという。
 森に火を放つなど、森林に覆われた日本では考えにくいかもしれない。しかし、このアボリジニのブッシュファイアは、闇雲に火を放ち山火事を起こしているのではなく、自然の仕組みをよく理解した上で、実に計画的に行われる森林の植生を管理するためのシステムであることがわかってきたのである。
 彼らは、火入れの場所や時期などに厳しい規制を設け、延焼を防ぐための知識と技術も伝承していて、森林を劇的に破壊しないための生態系への配慮をいたるところにしている。そうした知識のもとで森に火を放ち、生長しすぎた森をいったん破壊して、食糧として利用している低木のベリー類や、火に刺激されて一斉に生えてくるイネ科の多年草やキク科の草本類などの生育を促すのである。また、森からは害虫や毒蛇が駆除され、キャンプ地として利用しやすいようにも整備される。
 一方、オーストラリア政府が火入れを禁止した森は、放置されることで人が足を踏み入れることさえできない閉ざされた生産性の低い密林に変化してしまっている。森は定期的に火を放たれ、攪乱されることで、人の暮らしとの接点をもつという森と人とのひとつの関わり方がここには見られるのである。
 森を火によってコントロールするブッシュファイアは、山を焼いて食物を栽培する焼き畑農耕や、牧草地へ火を入れて新芽を促す野焼きにもつながる。火と人と環境。現代の環境保護を考える上で重要な観点のように思えた。




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