河北新報・微風旋風6 2003年12月30日掲載分
カブ漬けの味
今年のカブ漬けはおいしい。
おととしの映画の撮影以来、学生たちとともにお世話になっている山形県尾花沢市の牛房野で、先日、自家製のカブ漬けをご馳走になった。塩と山の水に溶かした味噌の上汁だけで漬けた牛房野のカブ漬けは、最近、温海カブなどの味付けとしてよく知られている甘味の強い酢漬けとはちがい、ピリッとした辛味とコリコリとした歯ごたえが癖になる独特の味わいをもつ。私は、毎年この時期になると、カブ漬けの味が恋しくなり、お世話になっている昭三さんのお宅におじゃましては、カブに舌鼓を打つ、というのがひとつの楽しみになっている。
この牛房野のカブ漬けの味が、今年はいつも以上においしいのである。昭三さんによると、今年のカブは実が引き締まっていてうまく、しかも、米は冷夏のためにあんなに打撃を受けたというのに、カブは何の影響もなく豊作だったという。
牛房野だけでなく、山形県や新潟県、秋田県南部では、昔は、ソバやアワなどともに、山の草木を焼き払う焼き畑でカブが作られていた。今でこそ、カブは漬物としてしか食べられていないが、大正期までは、米と混ぜて食べる重要なカテでもあったという。しかも、カブは、秋になって冷えてくると生長する性質があるため冷夏には強く、夏の土用の頃に焼いて種を蒔けばいいので、穀物の凶作の兆候が見えてからそれに対応して増産することもできた。
近世の農学書である宮崎安貞の『農業全書』にも飢饉の時にはカブを植えるべし、と記されているように、カブは凶作に強い作物としても昔からよく知られていたのである。
焼き畑でのカブ作りが東北の山村で行われたのは、その独特の味だけでなく、冷害に強いというカブの特徴を人々が熟知し、それを凶作や飢饉の備えとして大切に守り続けてきたからに違いない。
今年のカブ漬けには、そんな歴史の重みの味がする。(東北芸工大東北文化研究センター研究員。山形市)