河北新報・微風旋風11 2004年5月25日掲載分

山菜の季節



 昨晩、山形に来てからずっとお世話になっている尾花沢市に住むあるご夫婦から、宅配便が届いた。大きな発泡スチロールの箱を開けてみると、なんと、たくさんの山菜が入っているではないか。
 早速お礼の電話をかけると、ご主人が前日の朝五時に近くの山へ出かけ採ってきた山菜を、奥さんがアク抜きなどの処理をして送ってくれたものだという。ワラビ、ネマガリダケ、アイコ、フキ、ウルイ。確かに、どれも新鮮で、しかもひとり暮らしの私でも食べやすいように処理して、小分けにしてある。尾花沢の豊かな山の恵みとともに送られてきたご夫婦の心遣いとあたたかさに、仕事に追われ、疲れきって帰ってきた体と心も、スーッと爽やかで熱いものに包まれた。
 静岡の新興住宅地に育った私には、山菜というのは馴染みの薄い食材だ。子どものころ、散歩好きのおばさんに連れられて、近くの河原にツクシやフキノトウを摘みにいったことは何度かある。幼い舌にはまだフキノトウのほろ苦い旨さがわからなかったことは、ぼんやりとした記憶として残っているが、日常の食卓に山菜料理がのぼることはほとんどなかったのである。
 だから、山形に来て初めに驚いたのは、春から初夏にかけてのスーパーの野菜売り場だった。これまで見たことも聞いたこともない山菜が、何種類も並ぶ光景を目にしたからだ。しかもゴールデンウイークになると、家族で山菜採りに出かけるのが年中行事になっているという。私にとっては、それは一種の異文化との接触、いわば、カルチャーショックだったのである。
 でも、ご夫婦とのおつき合いを通じて、私も山菜の季節が今では楽しみになっている。まだ、奥さんの手作りの山菜料理を味わうだけだが、今年は新緑のなかを歩きながら山菜採りに挑戦してみたい。山形が、だんだんと私の第二のふるさとになってきている、そう実感した一夜だった。




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